ラグビーセミナーコラム5 世界最弱のチームvs世界最強のチーム

こんばんは、木坂です。


突然ですが、弱者と強者だったら、どちらになりたいでしょうか?

勝ち組と負け組だったら、どちらに入りたいでしょうか?

一見自明のこの問いについて、僕が、深く考えさせられたのが4年前。ワールドカップのとある試合を観たときでした。

その時のカードと全く同じカードの試合が今日、行われました。

ナミビア対ニュージーランド。

僕が今大会の予選で最も楽しみにしていた試合です。

世界最弱のチーム対世界最強のチーム、と言い換えてもいいと思います。今大会で最も点差が開くのではないかなと思いながら会場に向かったわけですが、なぜそのような試合をずっと楽しみにしていたのかと言えば、4年前のその試合が、自分が当たり前に持っていた世界観そのものを揺るがすインパクトがあったからです。

4年前も、当然大差でオールブラックスが勝利しました。しかし、世界のラグビーファンの心を打ったのはナミビアだった。

どんなに抜かれてもあきらめず追いかけ続け、どんなに跳ね飛ばされてもタックルし続け、世界最強・絶対王者オールブラックスに対して一歩も引かないその姿勢。

自分たちが世界最弱であることを自覚しつつ、負けることはわかりつつ、目の前のトライを目指して献身的にプレーするその姿、自分たちがやってきたこと全てを出し切ろうとするその姿勢、ラガーマンとしてフィールドに立っている意味を世界中に知らしめるかのようなそのプレーに、世界中のラグビーファンが感動したのでした。

そして、僕もその一人だったわけです。

4年前のその試合は、予選のベストバウトに選ぶ人も少なくなかった。普通、大差がついた試合というのは退屈で、観ていてもつまらないものですが、そうならないことがあるのがラグビーの面白いところ。


4年後も同じカードがあったら絶対観に行こう、と思っていたらまさかの同じカードが実現。抽選で真っ先にこの試合を申し込んだことは言うまでもありません。

結果、予想通りの大差となりましたが、本当にいい試合だった。

試合後、ナミビアの選手とオールブラックスの選手がとても仲よさそうに談笑し、ジャージを交換し、まるでひとつのチームかのように全員そろってグラウンドを回って観客にお辞儀している姿は、清々しくも美しいものでした。

僕が高校生の頃は、弱いチームは強いチームにバカにされたものです。僕の高校は大変弱かったので、いつも大変バカにされていました。

もちろん、弱者をバカにするようなメンタリティはラグビーのそれでは全くありませんが、ナミビアの試合を観ていると、

「弱いからバカにされたのではなく、全力で闘わないからバカにされたのだな」

とも思うのです。

強大な相手を前に、初めから勝ちを諦めていなかったか。本当に勝つつもりで準備してきたのか。

「どうせ負けるんだし」とどこかで思っていなかったか。追いかけるのを途中でやめなかったか。

跳ね飛ばされてしばらくそこに寝ていたのではないか。タックルの腰は引けていなかったか。絶対に負けないという気迫はあったのか。目の前のプレーを100%で常にやっていたか。

そもそも、誇れるほど努力してきたか。

僕らがバカにされていたのは、弱かったからというよりも、ラガーマンとはおよそ呼べない集団だったからなのだと、今は思います。ナミビアは、4年前にそれを教えてくれた。

どんなに弱くても、どんなに素人でも、“ラガーマン”は世界から尊敬されることを、教えてくれたのです。

ナミビアがラガーマンとして大切なことを世界に見せている間、オールブラックスは「王者とは何か」「なぜ自分たちが王者なのか」を、淡々と、残酷なまでに淡々と世界に対して80分間見せ続けた。

弱者とは、強者とは。
敗者とは、勝者とは。

今年も両チームは、僕らが無意識に、そして無批判に受け入れている価値観に問いかけてきたのだと思います。

本当にいい試合でした。

木坂

試合のハイライトを掲載しておきます。


後半、ナミビアがトライを取るシーンは、日本が南アから逆転勝利をつかむトライを決めたシーンと同じくらいの衝撃が、会場を包んだと思います。