ラグビーセミナーコラム9 暇になったナミビア代表とカナダ代表が示してくれたラガーマンの定義

この投稿は、2019年10月14日に和佐木坂サロン内で公開された木坂さんの投稿です。

こんばんは、木坂です。


昨日の試合は素晴らしかったですね。

もちろん、日本対スコットランドもそうなのですが、ウェールズ対ウルグアイ、トンガ対アメリカ、どちらも(多くの予想に反して)素晴らしい試合でした。

僕はトンガ対アメリカに特に注目していて、現地に観に行く予定だったのですが、残念ながら台風の影響で新幹線の都合が悪くなり、観に行くことが叶いませんでした。

昨日開催予定の中で一試合だけ、台風の影響で中止になった試合があります。それがナミビア対カナダです。

釜石のスタジアムで行われる予定だったのですが、安全に運営できない可能性がある、という理由で中止になりました。ワールドラグビーのその決定はもちろん正しいものだと思いますが、ナミビアもカナダも大会初勝利を目指していた試合だけに、残念だっただろうなと思います。

さて、そんな試合がなくなって暇になったナミビア代表とカナダ代表。昨日は何をしていたのでしょうか?


カナダ代表はボランティアで掃除。ナミビア代表は台風の被害を受けた人や今も避難所生活をする人々を元気付けたいと自らファンミーティングを打診。どちらも大変感謝されたようです。


どうしても田舎というのは、老人と子供の比率が高くなります。そんな中にあって、屈強な男たちが掃除を手伝ってくれる、数時間かもしれないけれど楽しい時間を用意してくれる、そんな体験は喜ばれるのではないかと思うのです。

釜石と言えば、僕には忘れられないエピソードがあります。

釜石にはシーウェイブスというラグビーのチームがあります。元々新日鉄釜石というとんでもなく強い社会人チームがあった地で、そのDNAを受け継ぐのがシーウェイブスですが、ラグビー界では菅平と並んで知らない人はいない地名になっている場所です。

そして、8年前の東日本大震災で壊滅的な被害を受けた場所でもあり、今回ワールドカップで使われているスタジアムは「釜石鵜住居復興スタジアム」という名前になっています。このスタジアムには、ラグビーの町釜石の、復興への想いが詰まっているのです。

8年前。

その時の様子をどのくらい覚えているかはわかりませんが、日本中から外国人が、まるで蜘蛛の子を散らすように逃げ出したものです。

野球、サッカー、その他スポーツで日本に居住している外国人は、当然母国からの帰国要請もあり、多くは帰国しました。当時アメリカに住んでいた日本人の友人はこう語ります。

「テレビで見る日本は、もう沈没するしかないと思ったし、実際そう報道されていた。毎日毎日日本が沈んでいく画ばかり流されていて、アメリカの友人は皆、身内を早くアメリカに呼び寄せろ、日本はもう沈むんだから、と口々に言っていた。」

これが、世界から見た日本だったわけです。こういう状況で帰国要請を出さない国、あるいは親族がいたら、そっちの方が頭がどうかしていると言えるでしょう。

そんな中で、釜石シーウェイブスの当時キャプテンだったアラティニという選手は

「ラガーマンがここで身体を張らなくて一体いつ身体を張るのか」

と、帰国要請を跳ねのけ、釜石でずっとボランティア活動をしてくれました。

彼は、僕が高校生の頃のオールブラックスの選手で、いつもテレビで観ていた選手でした。

オールブラックスを引退してから日本のサントリーに入団した彼でしたが、実のところラグビーへの情熱を失いかけていたそうで、そんなときに釜石に移籍してきました。

「釜石で、大切なことを全て思い出させてもらった」

と彼は語り、本当は1年だけの予定が結果として8年間(だったと思う)、釜石でプレーすることになります。

後に震災の時のことを聞かれ、

「自分を温かく迎え入れてくれた釜石を見捨てることはできなかった」

と答えていますが、そんな彼の“背中”のおかげでその他の外国人選手も何人か日本に留まって、ボランティア活動を熱心にやってくれたものでした。

被災地から何百キロも離れた僕にも「早く避難した方がいい」というメールがたくさん届くような状況にあって、また公式の発表も混乱を極めていた状況にあって、

「自分の大きな身体が役に立ってるよ」

と笑顔でがれきを運ぶ姿に、東京にいる僕ですら心から感謝したものです。

僕は、このふぇいすぶっくの投稿でも「ラガーマン」という言葉を何度か使っていますが、それはスポーツ選手としてのラグビー選手を意味していません。

ラガーマンという「生き方」だと思って使っています。

ですから、極論、ラグビーをやったことがなくても、老若男女問わず、ラガーマンにはなれる。そう思っています。

それが、僕が「ラグビーは最高の教育コンテンツ」と考えているベースとなる部分で、ラガーマンを育てたいというのは、ラグビー選手を育てたいということでは全くないのです。

別に、“ラガーマン”がサッカーやバスケをやってもいいと思うし、料理人になってもいい、むしろそうであってほしいと、思っているということです。大切なのは「競技」というよりはその精神性なのです。

今回、ボランティアに参加してくれたカナダ代表。

試合前日という大事な日には東日本大震災の慰霊碑を訪れていました。

ナミビアもカナダもラグビー弱小国ではありますが、試合が開催されていればきっと、ラガーマンとして、釜石のスタジアムで素晴らしい試合を観せてくれたと僕は思います。

それは自分たちの勝利のためでもあり、ラガーマンとして当然のことでもあり、また、その地に住む、あるいは眠る、人々のためでもあるのです。


木坂