この投稿は、2019年10月19日に和佐木坂サロン内で公開された木坂さんの投稿です。
こんばんは、木坂です。
先日出した突然のクイズにたくさんの方が答えてくれて大変うれしかったです。また、とても楽しく読みました。皆さんよく考えておられる。
(⑧に問いがあります)
そして、みんな正解と言ってもいいくらいの回答でした。
今回は、答え合わせというよりも、僕が元々何を言いたかったのか、を解説いたします。
「頭が通用しない」という問題は、非常に単純なことです。
どの試合でもいいので数秒間見てほしいのですが、例えばある選手がボールを持って突進したとします。
その選手を、相手の誰かがタックルで倒す。この瞬間に、その他の選手は次何をするか考え、決めなければなりません。
1.味方がタックルされた
2.相手の陣形、味方の陣形を瞬時に把握する
3.ディフェンスの穴はないか、あるいはスペースはないか、もしくはミスマッチはないか、探す
4.14人全員が全てを理解し、無数にある選択肢の中から次に何をするかを決め、共有する
5.次のプレーに移る
ということを、大体1秒以内にやらなければならないわけです。
大事なことなので繰り返しますが、現代ラグビーのトップレベルだと、1秒以内に全ての状況を把握し、次の意思決定をし、それをチームで共有し、全員が適切に動かなければ勝てません。
1回の致命的な判断ミスは、相手の1トライを意味します。よくて、大怪我を意味します。これは、オーバーに言ってないんですよ。僕は高校生のころ監督から
「それは“ホスピタルパス”じゃボケぇ!!!」
と魁男塾ばりに怒られたことがあります。
つまり、パスを受けた仲間を病院送りにする最低のパスということです。一瞬の判断ミスが、自分や仲間を病院送りにするのです。OB戦で内臓破裂し救急車で運ばれた先輩もいました。
思えばグラウンドに救急車が入ってきたのを見たのは、それが2回目。
1回目は中学の時、とある大会で前の試合をやっていた選手の鎖骨が折れて皮膚を突き破り、いわゆる開放骨折をしたときです。
交通事故かよ、と。
僕らみたいな弱小のレベルでも、致命的な判断ミスをすればそういうことが起こる。その何百倍もシビアな状況の中で戦わなければならないのが、ワールドカップなのです。
どんなに疲れてても、どんなに痛くても、どんなに負けて心が折れていても、1プレーの意思決定に与えられた時間は1秒以内。
これが、日本代表の選手たちが、ワールドカップに出ているすべての選手たちが置かれている状況です。その中で、痛みと疲労と精神が限界を迎える中で、常に
「正しい判断と意思決定」
が求められる。
一瞬でも気を抜けば大怪我や失点につながる、という状況が80分続きます。僕はたかがクラブチームの練習に出ただけで、今この瞬間にどのプレーを選択すべきか、が1秒以内に決め切れず何度もミスをしました。疲れれば疲れるほど頭が動かなくなる。
ミスればミスるほど、心のダメージで頭が動かなくなる。その無限ループ。それが、僕が「頭が全く通用しなかった」と表現した意味です。
80分って、4800秒ですよね、当たり前ですけど。ということは、理屈上一試合で4800回、判断と意思決定を求められるということです。それも、個人ではなくチームとして、です。
もちろん、実際にはこの数は増減しますけど、人生を豊かにする上で、こんなに素晴らしい「教材」は他にないと、僕は思うのです。
意思決定と言えばハーバードのビジネススクール。ケーススタディをめちゃくちゃやらされると聞きます。
ケーススタディは、僕の中では死体解剖みたいなもんで、何かを理解するためには有効ですが、その人がそれを現実の人生でできるようになるためにはまた別のトレーニングが必要です。
一方でラグビーは、死体解剖は当然のこと、生きるか死ぬかの意思決定を、永遠にやらされるところにその特徴があります。
意思決定について「分かっている」のと意思決定が「できる」との間には、雲と泥の間くらいの差があります。言うまでもなく、分かることは大切です。では、どうやってそれを「できる」に持っていくのか。教室内のグループワークでそれが達成されるとは、僕には思えません。
ハーバードの先生方も、一度ラグビーをやってみてほしい。
ラグビーが選手に要求する意思決定のレベルの高さを一度でも体験すれば、きっと「これでいいじゃん、いや、これがいい」って思うと思います。
そういう体験を子供の内から当たり前にしてしまうこと。意思決定が特別のものではない人間を育てること。その精度を高める手法を細胞レベルでしみこませること。これが、未来の教育を考える上でひとつの鍵になると、僕は思っています。
木坂