ラグビーセミナーコラム143位決定戦で見せた“いつもの”オールブラックス

この投稿は、2019年11月2日に和佐木坂サロン内で公開された木坂さんの投稿です。

こんばんは、木坂です。

いよいよ決勝戦ですね。昨日の三位決定戦を観て、さすがニュージーランドだなと思った人も少なくないと思いますが、少しラグビーに詳しい人が「ニュージーランドは別格」と言うとき、昨日のような試合を想定しているものです。

昨日のニュージーランドが特に調子がよかったわけではなくて、あれが「普通」なのが王者たるゆえんと言っていいでしょう。「こういう試合を見せたかった」と試合後にキャプテンが、とても安堵した表情で話していたのが印象的でした。

アイルランド戦、そしてウェールズ戦。これが普通。イングランド戦だけが異常だったわけですが、僕は現地で観ていてオールブラックスの調子が悪いとは全く感じませんでした。以前の投稿でも書きましたが、あれは単純にイングランドを褒めるしかない試合です。

日本代表の田中選手が「オールブラックスの調子が悪かった」と発言したという噂がありますが、だとしたら彼はテレビで観たんじゃないかな、僕も帰ってきて映像で観たら確かにそう見えなくもない試合だったので。


ただ、イングランド戦の後とある国の記者がオールブラックスのキャプテンに対して「オールブラックスはハングリー精神を失っていたのではないか」みたいな質問をして、ヘッドコーチがおこ!になる瞬間がありましたけど、現地で観ていてもそう感じる人がいるくらいには、イングランドは圧倒的でした。


キャプテンは


「私たちが今日まで、どれくらいのハードワークを積み重ねてきたかは、ご覧いただけたはずだ。試合の細かい点を見ればミスもあったかもしれない。だが、全力を投じたし、なんとか食らいつこうと、本気を見せて必死に戦った。」

と答えたわけですけど、かなり困惑していたことは確かで、王者の口から「なんとか食らいつこうとした」という言葉が出ること自体が、すべてを物語っていたと思います。


ハンセンヘッドコーチは

「みんな打ちひしがれているが、勝つためには全力を尽くした。イングランドは素晴らしいチーム。敗れたことに痛みはあるが、恥ずかしさはない。」

「全力を尽くしたが負けた。スポーツではそういうことが起こる。負けた時にも性格が出る。負けた時にも、同じ人間であり続けなければいけない。」

と、大変含蓄深いコメントを残しており、さすがオールブラックスのヘッドコーチだなと世界が感心したものです。

そして、その言葉通り、三位決定戦では同じ人間であり続けた“いつもの”オールブラックスを世界に対して見せました。

ここが一番すごい。

MSPを当たり前に体現していることに、僕は感心を通り越して感動します。

さて、決勝戦。

これまでの試合を観る限り、イングランド優位だと思います。ただ、結果は文字通り結果なので大して重要ではなく、というかオールブラックスが負けた今何が起こってもおかしくはないので、見どころは当然その「プロセス」にあります。


スポーツに限らず、レベルが高くなればなるほど、基本に忠実な展開になるものです。

スポーツの場合素人がやると単なるカオスになりますが、一流同士だと極めて秩序だった試合になる。

その意味で、今日の試合のポイントは、まさにセミナーで解説したことに尽きると思うわけです。

まずはセットピースとブレイクダウン。

フィジカルに絶対的な自信を持つ南アフリカがここで優位に立てなければ、イングランドの優勝で間違いありません。


次に、ゲインラインの攻防です。

特に、ともにディフェンスに自信のあるチームなので、ディフェンスの時にゲインラインを押し上げることができるかどうか。

オールブラックスのハンセンヘッドコーチが


「試合の中でアタックとディフェンスは半々だが、心理的な影響を考えるならディフェンスが9割だ。」

と語っていましたが、まさにその通り。

セミナーでも「ディフェンスのいいチームが勝つゲーム」と解説した通りのことが、今回も起こると思います。


ちなみに少し細かい解説をすると、ラグビーでは「セカンドマンレース」と呼ばれる概念が存在します。これは要するに「二番手に来る人の競争」なのですが、例えばタックルが起こった時に、次にそこに駆けつけてくるのがディフェンスの選手なのかアタックの選手なのか、ということです。


セカンドマンレースに勝利すること。これがブレイクダウンの基本になります。


日本の「ダブルタックル」が有効なのは、セカンドマンがもうそこにいるからです。

その代わり、相手の二倍の運動量が求められる。ちなみに南アもイングランドもダブルタックルは普通にできますから、もしかしたら、ブレイクダウンに勝利する、ゲインラインの攻防にディフェンスで勝つ、そういったことのために、そのシステムを採用してくるかもしれません。


・・・こんなことは、当然両チームとも当たり前に理解しているでしょう。

ですから、前半はポイントポイントでの流れ、ラグビーではMomentumと呼びますが、それの取り合いになると思います。

そして、その流れをつかんだチームに、勝利の女神が微笑むわけです。


もちろん、南ア対ウェールズのように、どちらに微笑んだわけでもないまま、試合終了のホイッスルが鳴ることも考えられます。

それでも、試合は決着する。


さあ、最後の1試合です。

みなさんも存分に楽しんでください。

木坂

追伸:とあるラグビーライターの人が、ワールドカップ開幕前、


「様々な意味で“初”という側面が大きい今回のワールドカップ。こんな時は、結果も初が付くことが起こるかもしれない。例えば、史上初の、黒人キャプテンを擁する南アフリカが優勝するとか。もしそうなれば、スポーツの枠を超えて、世界史的に意味がある。」

と言っていました。

さて、どうなりますか。