ラグビーセミナーコラム15 南アフリカの歴史、文化、スタイル、誇りが勝ち取った世界一

この投稿は、2019年11月4日に和佐木坂サロン内で公開された木坂さんの投稿です。

こんばんは、木坂です。


決勝戦は、まさに新旧ラグビー対決、といった様相を呈していましたね。

速いテンポで、ニュージーランド戦のようなラグビーをしたいイングランドと、とにかくブレイクダウンとセットピースで圧力をかけてテンポを遅くし、フィジカルなゲームに持ち込みたい南アフリカ。そのMomentumの取り合いがひたすら続いた試合でした。

一流同士の試合らしく、詳しくない方が見ていてもむしろわかりやすい試合だったのではないでしょうか?


前半が終わってみて、点差以上に南アフリカペースだなと思えているとすれば、かなりラグビーの見方が身についてきていると思います。

そして前半30分から約3分間の、南アゴールライン上でのディフェンス。

そこに痺れていたら、もうあなたは立派なラガーマンです。

反則こそ犯しましたが、あの3分間は、ウルトラマン、カップラーメン、その他諸々、この世に存在する3分間の中でも最も価値のある3分間に分類されるべき3分間だったように思います。


試合を通して、むしろ押している南アの選手が傷んでいる姿をよく目にしました。

それだけ、いつもにも増して、力強くコンタクトしていたということでしょう。文字通り、自分の身体を盾とし、矛として、チームのため、勝利のために働き続けたのです。

この勤勉さも、南アフォワードの特徴のひとつです。南アの選手が日本のトップリーグにたくさん所属するのも、なんとなく気質が合っているからなんじゃないかなあと個人的には思います。


試合前に見どころを投稿しました。そして、実際そのようになりました。

「さすが木坂さんですね!オンラインサロン界のオールブラックス!!」という声は一滴も聞こえてきませんでしたが、それは全く正しくて、あのようなことはラグビーを少しでもわかっていれば誰でもわかること。

エディジョーンズ自身が

「とてもフィジカルな試合になることは明白だ。」

と試合前に述べている通り、南アがやってくることは世界中誰もが理解していたわけです。

イングランドは、別にフィジカルで勝負するチームではありません。

より正確に言うと、フィジカルが強いのは当たり前で、その先の、さらにもうひとつ先のラグビーを作り上げてきた。それが王者オールブラックスを倒したラグビーでした。


対して南アは、どこまでもフィジカルなチームです。

ラグビーの潮流なんて関係ない、トレンドなんてクソくらえ。ラグビーの最も原始的な部分でひたすら勝負する。

細かい戦術なんて全部フィジカルでぶっ壊せばいい。

そういう気迫というか“覚悟”を感じます。まさに、それこそが南アの歴史であり、文化であり、スタイルであり、誇りであり、MSPなのです。


だから、エディにバレてようがバレてなかろうが、関係ないのです。

真正面からフィジカルバトルを仕掛け、そこに巻き込み、自分たちのペースを作る。それしか、彼らはやるつもりがない。恐ろしいまでの潔さ、清々しさです。


純粋なフィジカルバトルに巻き込まれたくないイングランドと、80分間フィジカルバトルを展開したい南ア。


大方の予想通り、そういうシンプルな構図の試合になりました。


南アフリカの「お家芸」であるフォワード戦。特にディフェンスで圧力をかけて、全ての接点でバチバチの肉弾戦に持ち込み、試合のテンポを遅くし、相手にダメージを与え続け、相手が疲れ切ったところを最後は異常に足の速いバックスがトライを取る。


このスタイルはもう何十年も変わっていないんですよ。

だから誰もがこういう展開に南アはしたいんだなということが分かっているし、エディだってその対策を徹底的にやっているはずなのです。


しかし。

わかっちゃいるけど止められない、のがフィジカルバトルの醍醐味なんですよね。

純粋にフィジカルで勝負するとなると、テクニックやらなんやらの誤魔化しがきかなくなります。

剥き出しの「強さ」そして「速さ」で勝負が決まってしまう。イングランドがどれだけ対策を練ろうが、強さと速さで劣っているのであれば一生勝てないのです。


前回の投稿のコメントにもありますが、細かい話は別にして、南アフリカは相手に合わせて戦術を変えたりしません。

いつも、どんな相手にも、同じ戦い方をします。なぜそれで結果が出るかといえば、南アフリカのスタイルと、ラグビーで勝利する方程式が、ぴったり一致しているからです。


セミナーで解説しましたね。

ラグビーはとにかくフォワードだ。とにかくディフェンスだ。とにかくブレイクダウンだ。とにかくゲインラインだ。

南アフリカのスタイルというのは、常にこのポイントで勝負をかけてくるスタイルなのです。「

世界最強」と言われるフォワードを擁しているわけだから当然なのですが、彼らが別にスタイルを変える必要がないのは、こういう理由によります。


では、なぜラグビーの神様は南アフリカじゃなくてニュージーランドなのか?


再三述べているように、世界最強がいるだけではラグビーは勝てません。

ジョナロムー最盛期のオールブラックスでも負けているのです。世界最強が、世界最高のチームになって初めて勝利できる。ニュージーランドが最強なのは、個々のタレントもすごいものがありますが、それ以上にチーム力が最高だからです。


チーム力は、その精神性と比例します。


語弊を恐れずに言えば、これまでの南アフリカはどこかプリミティブな印象を受けるチームでした。

屈強な大男たちを集めました、以上、みたいな。

それが今年は、ものすごく知的な、一段も二段も精神的に成長したような、成熟した空気が、ラグビーが求める男の姿が、そこにあった。


「オールブラックスに対抗できるとしたら、それは南アしかいないと思う」と以前書きましたが、それはチーム力がそれまでの南アフリカとは比べ物にならないレベルになっていたからです。

タレントは変わらない。毎年世界最強のフォワードがいて、異常に足の速いウイングがいる。変わったのはチーム力でした。そこはエラスムスヘッドコーチの手腕でしょう。彼が就任してから如実に南アは変化したと思います。


また、これは完全に個人的なことですが、イングランド戦を観て、この南アに日本はよくあそこまで戦ったよなあ、と今まで以上に尊敬の念を強くしたものです。

イングランドもフォワードには自信を持ってるチームなんですけど、そのフォワードをあれだけ押し込めるほど、南アのフォワードは強い。ジャパンはそれを相手に、イングランドよりよっぽどその圧力に耐えていたと思います。


チーム力、より強固なコミュニティという言い方をしてもいいのですが、それは僕らがトッププライオリティに置くべき課題です。

南アのように、ニュージーランドのように、才能ある個人が集まれば集まるほど、各々の能力、やりたいことがはっきりしており、チームとしてまとめるのは難しくなる。

それを毎年やってのけるからニュージーランドは神様なのだし、今年の南アは優勝したのです。